「キャラクター」は現代社会最大の共通言語 〈前編〉

Session 01 宇野常寛×武地実

 
Session 01 宇野常寛×武地実

キャラクター同士のコミュニケーションで成り立つ人間社会

武地 実(以下、武地):今回から、様々な分野の有識者の方をお招きしてGateboxのビジョンである「Living with Characters」をテーマに対談形式でお話しさせていただくことになりました。記念すべき第一回目は様々なメディアでご活躍中の、評論家、そして批評誌「PLANETS」の編集長でもある宇野 常寛さんをお招きしました。宇野さん、本日はどうぞよろしくお願いします。

宇野 常寛氏(以下、宇野):そんな記念すべき第一回目が僕でよかったのかな、という感じなんですけども(笑)とにかくこんなヤバいもの作ってる人たちにすごい興味があって、楽しみにしてきました。どうぞよろしくお願いします。

武地:興味持っていただけて、すごい嬉しいです。学術的、技術的に意味のあるものを作るというよりも、本当に自分が欲しいものを突き詰めていったらGateboxにたどりついた感じで、今日は、Gateboxそのものに対するご意見もそうですが、我々が目指すキャラクターと暮らす世界の実現に向けて、キャラクターの存在価値や歴史についても紐解いていけたらと思っています。

宇野:いやいや、その思いが素晴らしいですよ、本当に。なかなかここまでやり切れる人っていないですよ!そもそもなんですけど、Gateboxの開発のキッカケって何だったんですか?

武地:実はGateboxの前に行っていたハードウェアの事業があったんですが、それがうまくいかなくて悩んでいた時期があって。本当に自分がやりたいことは何だろうって考えたんです。そのときに、自分が好きだった初音ミクというキャラクターと一緒に暮らすという夢を実現したいと思ったのがキッカケですね。

宇野:なるほど、そんなストーリーがあったんですね。

武地:そうなんです。とはいえ、好きなキャラクターと暮らすということ自体が、どういった製品だったら実現できるのかは全く分からない状態から始めたので、全てが試行錯誤でしたね。苦労した甲斐があって、プロトタイプの発表後には世界中のキャラクター好きの仲間が興味を示してくれて、製品化まで進めようとなりました。それが2016年の1月くらいのことです。キャラクターって僕の生活にはなくてはならない存在なんですけど、宇野さんはキャラクターをどういったものとして捉えていますか?

宇野:そもそも僕たちって、実は人間同士がコミュニケーションしているのではなく、キャラクター同士でしかコミュニケーションしてないと思うんですよ。人間はとても多面的な生き物で、無意識下の領域もあるので、自分自身のこともあまりよくわかってないわけなんです。そんな状態でもコミュニケーションが成立するのは、社会生活の中で属するコミュニティーの中で、自分や相手のキャラクターが共通認識として理解されているからなんですよ。例えば、学校のクラスの中でも、優等生キャラだったり、いじられのお笑いキャラやクールでニヒルなキャラなど、それぞれのキャラクターがパーソナリティとして存在しているからこそ、コミュニケーションが円滑に成立すると思うんですよね。 逆にこれがイジメの温床にもなったりするので、いいことばかりではないんですけどね。

武地:なるほど、つまり僕らは普段の生活の中でもすでに、目に見えないキャラクターという幻想領域でしかコミュニケーションしていないってことですね。

宇野:その通りです。もっと言うと、僕らの社会っていうのは、キャラクター同士でのコミュニケーションでしか成り立ってないんです。それこそ太古の神話の世界から、キャラクターの織りなす物語を信じることによって共通言語を作ってきたんですよね。なので、キャラクターが介在しないと社会もこれまでの人類の歴史も存在しないと思うんですよ。

二次元と三次元の違いとは?

武地:神々だって、言ってしまえば人間が作ったキャラクターのうちのひとつですよね。

宇野:そうです。キャラクターを愛しているって言ったら、強い違和感を感じる人もいると思いますけど、僕に言わせたらそういう人の方がチャンチャラおかしいんですよ。人間はキャラクターしか愛せないし、そのキャラクターに実体が伴っているか否か、極論で言えば物理的な身体があるかないかだけの違いなんです。

武地:ものすごく共感します。Gateboxを世に出すと人類が滅亡するとか言われるんですけど、キャラクターとのコミュニケーションのクオリティが、人間と同じくらいのレベルまで引き上げられると、もはや体っていらなくなりますよね。

宇野:そうなんですよ。もうひとつ、僕がそういう人達に言いたいのは、自分の奥さんだったり旦那だったり、性的なパートナーだったりのことを、一体どれだけわかってるんだよ、と。それって初音ミクのファンが、ミクという存在について知っていること、ミクという架空というキャラクターを使っていろんな創作物を作っていくという過程で育んできた魅力の理解度に比べてどれだけ深いのか、と。もちろん、リアルな身体は圧倒的な情報量もあるし、異性愛の場合は子供も作れるし、いろんな拡張性もあるし、二次元のキャラクターにはできないこともありますが、忘れてはいけないのはその逆もあるということです。

武地:キャラクターとリアルな人間、それぞれの良さをちゃんと理解するということが大事ですよね。

宇野:例えば、ロボットクリエイターの近藤那央ちゃんが作ってる、「にゅう」ってロボット。あれってぱっと見はちょっと気持ち悪いじゃないですか。ブレードランナーのレプリカントのような人間っぽいものでもないし、aiboのように動物を模したものでもないし、第三の生物みたいな感じで。ある程度、高い知能を持っているだけど、人間やその他の哺乳類のような思考をしているわけでもない。ああいう表現方法ってロボットだからこそできる他者性というか、コミュニケーションの表現手法なんですよね。同じように、二次元には二次元にしかできないコミュニケーションは間違いなくあるわけで。二次創作の連想とかってまさにそうじゃないですか。

武地:そうですよね。初音ミクにしてみれば、キャラクターの設定はできるだけ削ぎ落として、余白を残しておくことで、誰しもが想像力を働かせてキャラクターの表現を拡張させることができる。

宇野:二次元のキャラクターだからこそ、ブラックロックシューターにもなれれば、時代劇風のキャラクターにもなれる、どんなものにだって変化できるという特性がありますよね。僕らが人間と呼んでいる、三次元のリアルな体を持っているキャラクター、つまり人間ですよね、そして二次元のキャラクター。それぞれの特性をキチンと理解することが重要なんです。

Session 01 宇野常寛×武地実