購入
購入
 

日本だからこそ生まれたGateboxとキャラクター文化 〈前編〉

Session 02 中野信子×武地実

 

日本でキャラクター文化が栄えた理由とは?

武地:そういえば、中野さんはアニメとか漫画とかご覧になりますか?

中野:大学院生くらいまでは見ていたんですけどね。「ローゼンメイデン」とか「涼宮ハルヒ」で止まっている感じです。本当はもっと摂取したいんですけど、時間が足りなくて。

武地:おお、なるほど!

中野:気になることがあるとそれをとことん追求する性格なので。私が今、一番興味があって時間をつかっているトピックがあるんですけど、きっと武地さんも興味があるかなと。「集団」においての心理学、特に「意思決定」についてなんです。例えば、人間が意思決定するとき、自分一人で決めていると考えていても、意外に外からの影響を受けているということがありますよね。それが、集団になると自分が「いいな」と思っているのとどんどんかけ離れていくという現象について追ってみたいなと思っているんです。

武地:面白そうですね!僕も立場上、自分で意思決定をすることが多いので。自分が何かを決めるときも、それが本当に自分の意思なんだろうかと考えることがあります。会社のメンバーがそれぞれ自律的に動けるようにしようと思うと、あんまり自分の意見を言わない方がいいのかな、どこまで言ったらいいのかな、なんて日々試行錯誤しています。

中野:この辺の話って、キャラクターの話とそう遠いものでないと思うんです。集団がある程度大きくなってくると、それを自律的に動かすためには倫理規範が必要になってきますよね。その倫理規範を統合するためのものとしては、明文化された法ってあまり役に立たないんですよ。

武地:たしかに、憲法とか一言一句読む人は多くはないですよね。

中野:非常に知的な人はそれを参照したり、テクニカルに扱ったりして色々な物事を進めていけるんですけど、必ずしも全ての人にそれが当てはまるかというと、そうではないですよね。明文化された法の代わりに、擬人化された神などを通じて、子供達に倫理感を教えていくわけですよ。さらに集団を成立させていくために、神の代弁者という役割で巫女のような存在が古くから続いているわけです。これを現代に置き換えると、意外とアニメーションのキャラクターだったりするんじゃないかと思うんです。

武地:それは僕もすごく思います。特に、子供って誰しもアンパンマンとかドラえもんとか見ていて、その中から生きる上で大切なこと、例えば、困っている人をいたら助けようか、基本的な考えが身に付くのかなと思っています。

中野:そうですね、自己犠牲的な振る舞いが良いことだということを、自然に学ぶようになりますよね。お母さんが直接叱るよりも、子供にとってははるかに受け入れられやすいですよね。この流れって昔からずっと同じ構造があったと考える方が自然だと思うんです。もちろん昔はアニメはないんですけど、同じような存在として七福神がいましたよね。

武地:神様とか宗教とかってキャラクターの根源的なものだったりしますよね。

中野:普遍文法、英語で言うと、ユニバーサルグラマーというものがありますよね。私たちが普段使う文法は言語によって異なるけれど、基本的な構造は共通の部分があるという概念です。
この考え方を拡張させてみるならば、普遍物語というものもあっていいと思うんです。この普遍物語を使うとより多くの人々をまとめることができ、集団に対して自然に倫理観を教えることができるキャラクターというものを、私たちは自然に受けとめることができるようにできているんじゃないかという仮説です。言語を使用する領域よりも先に、擬人化された存在から教えられるという振る舞いの方が先にあるんじゃないかという考え方ですね。

武地:なるほど、Gateboxにも関連して興味深いお話ですね。

中野:この仮説だと、日本でキャラクター文化が栄えていることもよく説明できると思います。日本は歴史的に見ても社会規範や集団の結束を強めるものがより必要とされる社会だと思うんですね。世界のほかの領域と比べると地理条件などの特殊性があって、どうしても流動性が低くなっています。
商業がもっと盛んだったら人の入れ替わりも多かったのかなと思いますけど、実際に日本の歴史を振り返るとそんなに商業が重視されたこともなくて。室町時代の半ばあたりに勘合貿易が始まって、そこから織田政権くらいまでは商業が重視されていた事実はありますけど、豊臣政権になってからは、お米が年貢として貨幣と同等に使われるなど、重農主義が続いていました。
さらに、太閤検地などが行われて、土地と人が紐づけられるという流れになっていったと思うんです。これは徳川政権でも変わりません。そうすると集団の性質もどんどん変化して、土地を離れることが悪いこととして認識されるようになったと。実際に夜逃げすることが罰せられるという法律があったくらい、人が動くことが禁じられる世の中だったと思うんですよね。
その上、日本は災害が非常に多いため一人だけ生き残っても復興できない。集団として生き残らないと子孫が残せない。なので、周りと仲良くしてみんなで生き残るということを受け入れた人だけがどんどん濃縮されていきます。そうやって濃縮されていって、「空気を読む」ことが大切になったのが今の私たちが生きている社会なんですよね。集団感を重視するということでは、巫女や神の言葉というものに対する感受性がほかの国とは大きく変わってくるんじゃないかと思うんです。

武地:その仮説は面白いですね。

中野:今の流れで説明がつく現象は沢山あると思うんですよ。

後編「テクノロジーの進化がもたらすキャラクターと人間の関わり」へ続く

Session 02 中野信子×武地実