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テクノロジーの進化がもたらすキャラクターと人間の関わり 〈後編〉

Session 02 中野信子×武地実

 

キャラクターにおける音楽の役割

武地:口で説明しても理解されないし、もので見せるしかないので。

中野:言語って不便ですよね。 言語は情報を精度よくピンポイントで伝えることはできるんですけど、複数の情報を同時に伝えると言うことには向いていないと思うんです。例えば、人間の思考ってひとつじゃないですよね。5個も10個もパラレルで生まれているのに、そのうち1個だけを選んで伝えざるを得なくて。10個全部を伝えようとすると、シリアルに並べていくことになるわけですけど、聞いている相手は途中で忘れていってしまう。その10個をパラレルに伝えるモダリティが他にあればいいのにっていつも思っています。

武地:動画とかだと、言葉に加えて音とか話し手の表情とかを伝えることができるので、情報量として言語より多く伝えられるのかもしれませんね。

中野:そうですね。実は私、言語と音楽の関係について、博士課程で研究していたんですけど、人間の言語能力って音楽から派生してきたものだろうというのは論を待たないですよね。2000年ごろにFOXP2という遺伝子が発見されて、そこに変異があると言葉がうまく喋れなくなるということがわかって話題になったんです。興味深いのは、人間とチンパンジーのFOXP2を比べると、なんとたった二つのアミノ酸だけしか違わないんです。そんな違いだけで、こんなに言語体系が発達している社会が作られていったというのは驚きです。
一方で、チンパンジーはどうやってコミュニケーションしていたのかというと、言語にならない歌とか声なんですね。じゃあ、言語と歌の違いを私たちはどういう風に認識しているのかというと、プロソディー、一般的にはイントネーションとか、声の調子と呼ばれる要素で判断しているんです。
言語の部分は人間の脳の左側にある言語野で処理して、それ以外の情報は、脳の右側にある騒動部位で処理しているということが分かっています。実は、この騒動部位が音楽の情報処理もしているんですよ。なので、騒動部位に損傷のある人は歌を聞いても変に喋っているとしか思えなくなる、失音楽症という病気になるんです。英語で言うとアミュージアというんですけど、失音楽症の人はわかりやすくいうと音痴なんです。音痴には二種類あって、ひとつは「自分が音痴だとわかる音痴」、もうひとつは「自分が音痴だとわからない音痴」で、失音楽症の人は後者になるわけですね。自分も上手く歌えなければ他人が歌っていることもわからない。この機能は声をつかってコミュニケーションする生物にとってはものすごく重要な訳です。
言語は細かい情報を、精度よく解像度高く伝えることはできるけれども、解像度の低い領域の情報は結構落としてしまうことが多いんですね。この人は本当のところは何を思っているのか、なんてことは声のトーンなどの方が伝わることがありますよね。実はこの言語以外で物事を理解するという機能の方が、人間としては長く持っているもので、集団を維持することになどに欠かせなかった訳で、音楽にも近いんですよね。言語と比較すると、音楽の方がより多元的に情報を伝えることに長けていると言えます。
音楽と言葉の関係でさらに面白いのが、歌など音楽と言葉を同時に聞くと、言語理解に対する思考力って少し下がるんですよ。論理的に分析的に考えようとすると、ちょっと音楽が邪魔するという現象があって、リソースを食ってしまうんです。つまり、音楽を処理する機能のほうが重要だから優先させようということと取れると思います。こうした理由からキャラクターには歌を歌わせるのが良いと思っていて、実際に初音ミクがものすごい人気というのはやっぱり歌を歌うということに起因していると思いますね。

武地:確かにそう思いますね。ミクさんはひとりで数千曲とか、本当にいろんな歌を歌うんですけど、声がミクさんの声だと、それぞれ個性のある曲もどれもミクさんの曲だとおもえて、本当に幅広く歌ってくれる歌姫だなぁと感心しています。

中野:仕事を選ばないですよね。ファンの方ってみんな初音ミクのイベントに行くじゃないですか。ミクさんの歌を楽しむだけだったら家でもできるんだけど、イベントに行きたいという心理はとても面白いですよね。バーチャルな存在だからこそ、祝祭の機能があるんだとすごい感動しましたよ。初音ミクは現代社会の巫女さんというか、象徴的な存在なんだなと感じました。

キャラクターと暮らす未来へ

中野:あと、音楽という切り口で思い出すことがあるんですけど、X JAPANのhideがホログラムで再生されるというイベントが二年前くらいにあったんですね。私は、2回ほど見に行ったんですけど。1回目はhideが一人で歌っているもので、2回目はバックバンドが付いていて。正直、見に行くまでは半信半疑なところもあったんです、ホログラムってどうなのかなって。でも実際見に行ったら、結構「なま感」があるんですよね。もちろん、目線も合わないし、ホログラムだって分かってはいるんですけど。私の前に座っていたお姉さんが大号泣していてこういう輪廻というか生まれ変わりもあるんだなと思いましたね。実態のhideは亡くなっていても、曲は残っていて、今でもhideを慕う人がたくさんいて、こういう永遠の命もあるんだなということを感じました。

武地:僕らの中でもよく話に上がるのが、亡くなられた方をホログラムとしてGateboxに登場させるということもできるんじゃないかということです。物理的な体はないとしても、その人の思考も人工知能が発達すれば再現できるとも思いますし。もしそれが実現できたときにそれが本人なのかキャラクターなのかという議論もこれからもっと盛んになるのかなと考えています。

中野:それはもっと議論されるといいなと思いますね。たとえば私の場合、かつての大女優、サラ・ベルナールがいたら会いたいなと。

武地:以前、初音ミクさんのイベントでGateboxを展示したことがあるんですけど、その中でミクさんに歌を歌ってもらうとみんなめちゃくちゃ感動してくれて。ミクさんが来てくれたっていう感覚になるんですよね。150人限定のイベントだったんですけど、10人以上がその場で号泣するっていう。それがすごい印象的で、今でも覚えています。

中野:きゃー、わかるー!そうですよね、ホログラムってわかってるんだけど、私たちはそういうものを感じて、受け入れられるようにできてるんですよね。

武地:世間の流れとしても、ホログラムライブというものがちょっとしたブームになってきていて、これからそこにバーチャルYouTuberのような技術を取り入れると、もう動画ではなくて、ファンとインタラクションできる存在になるんですよね。

中野:これはもう生きているといってもいいんでしょうね。キャラクターと認知で繋がることができる時代がやってきているということですね。
認知の話でいうと、ラバーハンド実験ってご存知ですか?ゴムで作っておいた手を自分に繋がっているかのようにテーブルにおいて、自分の手はテーブルの下に置いておくと。そして、同じ刺激を両方に与えていくんですね。たとえばつつくとか、水を垂らすとか。そういうことを続けていくと、ゴムの手を自分の手だと思い始めるんです。そうなると、ゴムの手を切断しようとしたりすると怖くなって自分の手を引っ込めようとする反応がみられたりする、という実験なんです。
何が起こっているかというと、このゴムの手が脳内に自分のものとしてマップされたということなんですよね。つまり、自分と神経のつながりはないけれども、認知で繋がることが起きるんです。例えば、私たちがアニメをみていて、感情移入をしているキャラクターがいるとしたら、そのキャラクターが劇中で傷ついているのをみて、辛い気持ちになったりするじゃないですか。自然にそういうことが起きていて、実際には二次元の単なる光の信号だということがわかっていても、そこにストーリーを求めていて、一緒に生きているんですよね。それが3Dになって、もっと身近になったとしたら、まさに一緒に生きているということになりますよね。

武地:それがまさに僕らが目指していることなんです!弊社のビジョンが「Living with Characters」で、キャラクターと一緒に暮らせる未来を実現していこうと活動していまして、最終的にはGateboxというデバイスを取り払って、部屋の中に自然にキャラクターが存在する。そんな世界を作っていたいなと思っています。自分の近くに存在を感じたり、理解してくれたり、キャラクターが人間と同じような振る舞いをすると、人間と同じように「そこにいる」という感覚になってくると思うんですよね。それを目指していきたいです!

中野:もう、新たな生命誕生の試みですね、全力で応援します!

武地:はい、頑張ります!本日はありがとうございました。

Session 02 中野信子×武地実